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知っておくとメリット絶大電力・ガス自由化の話, 川本 武彦, 幻冬舎

2016年4月から開始する電力自由化を前に、将来的に節約術につながるかもしれないので少し勉強しておこうと思い購入した。生憎いまの住まいは集合住宅なので直接関わることは無いのかなと思いつつ、一般常識として&離れて一戸建てに暮らす両親に何か聞かれたときのためにと思い。こういう話になると賃貸派は置いてけぼりがちなのよね。分譲だと何かしら決定権があるのかしら・・・。

知っておくとメリット絶大電力・ガス自由化の話

知っておくとメリット絶大電力・ガス自由化の話

 

 

第1章では自由化の概要や経緯、総括原価方式の話と日本のエネルギコストがいかに高いか(2011年のデータで電気はアメリカの2倍、ガスは4倍!)、第2章では電気料金の中身(電源開発促進税や地球温暖化対策税、固定価格買取制度賦課金の存在)や太陽熱温水器の有用性(中国出張中に見た、屋根に五万と並ぶ変な装置の謎がやっと解けた)等を説いており、基礎知識としてはなかなか参考になった。だから買った。が、第3章では通信や生命保険と電気・ガスのセット販売(?)、家族割引サービス、ポイント制度など筆者の妄想が広がり、第4章では文章が崩壊する。

エネルギ消費量と省エネ目標

p.114 図表10は、日本において、どういった分野でたくさんエネルギーが使われているのかを示したものです。このグラフを見ると、工場などの産業用の分野でのエネルギー消費が大きいことがわかります。

このように、日本は国内でたくさんのエネルギーを使っています。だからこそ、エネルギー問題が大きな課題になっているのです。

第一に、日本はエネルギーの大部分を輸入に頼っています。

 文章構成が何だか気持ち悪いのは百歩譲るとして、図表10に示されたのは最終エネルギ消費(部門別)と実質GDPの推移。一文目、二文目は間違っていないのだが、グラフで示されているのは1973~2013年度の40年間でGDPは2.5倍になり、最終エネルギ消費は1.3倍になったということ。ここから読み取れるのは「日本は国内でたくさんのエネルギを使っている」ことでも、「エネルギ問題が大きな課題になっている」ことでもなく、「エネルギ効率の向上の恩恵を受け、GDPに対してエネルギ消費量は緩やかに増加している」というのが素直な考察ではないか・・・。

論理はともかく産業界の省エネの話にシフト。

p.119 義務となる省エネのレベルは、毎年1%以上ということになっています。少ないように思えるかもしれませんが、10年で10%の省エネになります。

1%というのは少なくとも現状の省エネ法では努力目標のはず。毎年このレベルで削減することが義務になれば、技術的に不可能になる業界も出てくるだろう。

LPガスのゴリ押し

筆者の会社はガス供給を第一の事業に挙げていることもあり、文中にはLPガスのゴリ押しが目立つ。タクシーの多くがガソリンではなくLPガスで走っていること、東日本大震災の際にLPガス不足が発生しなかったことに触れ

p.136 すべての自動車をLPガスにする必要はありませんが、一部はLPガス自動車があっても良いと思います。自動車の燃料にも、ベストミックスがあるのです。

と主張。車両価格が高くなりスタンド数の少ないことが分かっているLPG車に好んで乗る人がどれだけいるというのだろう。ベストミックスがあるとすれば、それこそ筆者の売り込んでいるLPガス発電システムから電気自動車に電力を供給すれば良いのではないだろうか。

エネルギの地産地消

よく言われるエネルギの地産地消は、送電ロスの低減や熱エネルギの有効利用によりエネルギ効率の向上を目指すものだと理解していたが、違うのだろうか。

p. 139 再生可能エネルギーの電気を、電力会社に売るのではなく、地元で使うという試みも行われるようになってきました。(中略)まさに、エネルギーの地産地消ということです。

p.141 ポイントの1つは、地元の再生可能エネルギーの電気を地元で使うことにあります。再生可能エネルギーを地元の自然の恵みとして使うことができれば、電気代などが少し安くなるかもしれません。

なぜ安くなるのか、ちょっと意味が分からない。残念ながら、筆者は地域エネルギ事業のメリット(らしきもの)として、地元の間伐材を利用した熱供給事業により地元に若い人が定着することと、建設したソーラーパークを小学生が見学できることしか挙げていないように読める。

p.138 地方で再生可能エネルギーが開発されても、投資も施工も地域外の、例えば首都圏に本社を置く企業が行っていて、発電した電気もすべて大手の電力会社が買い取っているのだとしたら、地方にはあまりメリットがありません。

と述べる一方で、

p. 144 都市部の消費者が、いろいろな産地の電気を選んで使うというのも、おもしろいと思います。

と何がおもしろいのか分からない発言をしたかと思えば(ピュアオーディオオタクが電力会社を選ぶ話のことだろうか)

p. 150 こうした地方の再生可能エネルギーの電気を、大規模な需要地である大都市圏に送電することができれば、我が国の再生可能エネルギーの利用は格段に増えると思います。

と手のひらを返したり・・・。そしてなぜかパプリカ事業の話を3ページだけ挟みつつ(美味しいそうです)、最後には、なぜ地産地消の章に入れたのか分からないが"国際送電線"として

p.152 ロシアのサハリンでは天然ガスが産出します。日本はこのサハリン天然ガスLNGで輸入しています。しかし、サハリン天然ガス発電所を建設し、海底送電線を含めたスーパーグリッドで輸入したほうが、エネルギーの無駄は少なくてすむのではないでしょうか。

と提案。これって本当なんだろうか。常識的に考えると電気ではなく物質=ガスで輸送した方が確実にロスは減らせると思うのだが、スーパーグリッドってそんなにすごいの?教えてエロイ人・・・。

そんな具合で、全体的に文末に「○○ではないでしょうか」「○○と思います」「○○でしょう」を多用しており、事実なのか推測なのか予言なのか困惑すること多々あり。第5章は基本的に自分の会社の良いところをアピールする内容。これは、そんなもんだろう。

 

筆者は本書を通じて、電力・ガス自由化に対して消費者がどのように対応したら良いのか述べたと書いているが(p.208 「おわりに」)、何をもってそう自負しているのだろう。少なくとも私はこの本を読んで両親にアドバイスが出来るようになったとは言えない。タイトルにある「知っておくとメリット絶大」とは微塵にも思えない。会社のPR目的で出版した本なんだろうか。もっといろいろ知りたいと思わせるきっかけになったという意味で、読んだ価値はあるのかな。

 

評点:★